|
執筆者である動物写真家&ジャーナリスト・岩井猛氏のご好意により、
月刊“愛犬の友"(誠文堂新光社刊)02年4月号に掲載された記事を転載させていただきました。 なお、一部、本誌掲載時とは表現の異なる部分があることをお断りしておきます。 |
|
|
“愛犬の友”掲載 [シリーズ]人と犬のこれから 取材&文/岩井猛 |
|
| “犬連れ山登り”の愛好者が急激に増えている。アウトドアー指向の強い飼い主が増加している昨今、当然の事なのかも知れない。しかし、その反面各地で様々な軋轢も報告されており、取り巻く環境は必ずしも愛犬家に優しいものではないようだ。そんな中、山岳地帯の代名詞のような長野県で「環境保全のための条例」が地元山岳会のリードで制定される動きが出てきた。条文には“犬の立入禁止”も盛り込まれていると言うことで、愛犬家たちをハラハラさせている。 | |
| >> やはり“犬禁規制”!?長野県で自然保護環境保全条例が・・・ | |
| 2月の中旬頃、本誌編集部に読者の方から1本の電話をいただいた。その内容は「長野県の山岳地帯で、犬を立入り禁止にする条例が出来るらしい。その条例案がこの4月にも県に提出されるといい、詳しいことを取材してはもらえないだろうか」という主旨のものであった。電話の主は、犬連れ山登りが趣味だという女性Mさん。インターネットを使い、同好の方達と山情報を提供しあうグループも持っているという。今回、そのグループメンバーの一人が、2/8付けの『信濃毎日新聞』“高山帯の自然と環境保護へ−包括する県条例を”と題する記事を見て、慌ててネット上に配信してきたという。
記事の内容をざっとご紹介しておこう。 |
|
| >> 犬は本当に生態系を壊すのか? | |
| 今回の条例は、人間に対する規制が中心で、犬に関しては、むしろ副次的な性格を持っているようだが、我々犬飼にとって“犬禁”部分はやはり深刻な問題だ。
山や自然を考えた時、環境保全が何よりも大切なことは言うまでもない。野生動物や高山植物を守ること。ましてそれが希少種であれば尚更のこと、絶滅などは何があってもさせてはいけない事だ。日本の数少ない貴重な自然、それらを守るために犬が立ち入りを制限される所があっても、当然致し方ないことだろう。しかし、それが本当に必要なことであればのことだ。中には何かのついでの“犬禁”などは無いのだろうか? 「あちらがこうだから、こちらだっていいだろう」というのはまた違うだろうが、心ない飼い主が山に残していく犬のウンチが、必ずこれらの規制の原因になっているのだが、では、登山道周辺には、その比でないほどのおびただしい人糞が残されているのを、果たして理解した上でのことなのだろうか?またそれは、今では清流ですら検出されるという大腸菌の大きな原因であるとも言われている。 毎年、富士山が閉山する時、山小屋から一斉に大放出される糞尿は大量のテッシュまでも含み“白い川”と呼ばれて有名だ。(環境省によると本年からはかなり改善される予定だという)トイレを使ったとしても人糞の環境破壊は本当に深刻な状況なのだ。もちろんだからといって少量でも犬の糞を残していいものではないし、言い訳にもならないが、まるで犬のウンチだけが生態系に悪影響を与えてるかのような伝え方はいかがなものだろう。しかも、犬を連れて入山するような飼い主の多くは、大変高い意識を持っており、きちんとウンチを拾い持ち帰る人が多いと聞く。健康で清潔を保たれた一般的な飼い犬が、正しいマナーで山歩きに同行する程度で、生態系破壊の原因になるというのであれば、その確かなデーターを提示する義務があるだろう。 |
|
| >> 条例の今後と行方 | |
| さて、予定されている条例案がどの程度のデーターに基づいているものなのか、その成立までの見通しなどを知りたくて早速取材を申し入れてみた。まずは担当部署である長野県環境自然保護課に問い合わせしてみたが、県では新聞情報以上のものは何も掴んでいないと言うことだった。そこで4団体の中でも一番規模の大きい県山岳協会に取材を申し入れ、事務局長の須藤さんにお話を伺った。
「この運動はまだ始まったばかりで、まだ4団体のコンセンサスすらとれている状態ではありません。4月に原案を提出したいとは言っても、すべては今始まったばかり、(4月には)とても間に合う状態ではないと思います」と、県山岳協会側では記事のニュアンスとは若干違うコメントだった。さらに犬の立ち入りについての見解も伺ってみたが、「犬の件に限らずこれらのことは広く皆さんの意見を聞きながら決めることです。データーを揃えたり、学術的な調査をする事も今後の課題で、ただ闇雲に規制をすることはあり得ないこと」と、愛犬家にとっても一安心する内容のコメントをいただいた。 さらに、今回のこの運動に最も積極的に取り組んでおられる、県中高年山岳会交流会の森田稲吉郎さんにもお話を伺ってみた。「原案自体は4月に提出できたとしても、そこから調査など、実に時間のかかる作業がたくさんあります。形になるまでにはまだ5年はかかるでしょう」とやはりここでも、今すぐに結論を出すつもりがないという姿勢であった。犬好きを自称される森田さんには、パートナーとして、家族として、犬を扱う昨今の“犬事情”をご説明させていただいたのだが、犬の入山については、良き理解を示していただいた。 あくまでも私見という条件付きでの話だが、「調査結果次第だが、きっちり訓練されていて清潔も保たれ、健康でワクチンなども接種してあり、ウンチを持ち帰るのであれば、規制する根拠はおそらく出ないのではなかろうか」ということであった。また「それらを兼ね備えた犬である事を証明する制度が今後は必要になるのだろうと思う。登録制などが最も現実的な方法だろう」とのお考えのようだ。「雪崩災害などでは、雪崩ビーコンよりも遥かに犬の方が性能が良く、犬に助けを借りることは今後もたくさんある。犬を良きパートナーとして山登りする人の気持ちも理解できるし、今後ぜひ前向きに取り組んでいきたい」と約束してくれた。 結局のところ、今回の保護条例の話は、愛犬家が今早急に対策を打たなければ長野県の高山すべてが“犬禁”にされてしまうという事態ではなかったようだ。しかし、条例によってその効果が確実に期待できるものであるのならば、自然保護の観点から考えても早急な制定が必要なはずだ。我々犬飼いも、かけがえのない自然を守るためには、ただ対立構造に走るのではなく、一緒に考え、作り上げていくという姿勢が必要になってくるだろう。そのためにも、条例案作成の段階で、愛犬家たちの意見も広く聞き入れる工夫をしていただきたいものだ。また逆に、入山を目指す愛犬家たちに対しては、マナーなどの啓蒙活動を愛犬家たちが主体になってやらなければいけないだろう。それらのシステムを作ることが現在最も急務なことかも知れない。 例えば、犬のウンチなどはすぐに土に還るとばかりに、大した悪気もなく放置していく飼い主も多いと聞くが、高山帯では、ただでもバクテリアの数が少なく、数年に渡って分解されない状態も珍しくないと言う。これなどはある意味で、無知が原因での悪習慣かもしれない。しっかりとした啓蒙活動をすれば、さらに放置ウンチなどは減ることになるだろう。 |
|
| >> 犬連れ山登りの問題点 | |
| 今回Mさんをはじめとする愛犬家たちが、なぜこのように過敏とも思えるような反応したのか?実はその原因は他にもあった。
Mさんにお話を伺ってみた。 こよなく山を愛し、自然を愛するMさんや、そのお仲間たちが山や自然に対していかに真摯に考えているかは、グループのインターネット掲示板を見せていただいてもよく分かるものだった。環境保護という意味ではむしろ大変積極的な人々だ。それは山を愛する、他の多くの愛犬家たちもきっと同じ気持なのだろう。 ただ、自然保護・環境保全を理由に漠然と“犬禁”にしている山がたくさん出現しているのだ。その多くは国立公園や国定公園内に位置するところで、人気のスポットが集中しているところだ。管理は国や県からの委託であったり、地元の観光協会、山小屋など実に様々だ。またその規制内容も一定でなく、法的根拠も分からないものがほとんどだという。今回の条例案が、犬締め出しの追い風になり、日本中の山に犬禁規制が敷かれはしないか?その点が何よりも恐ろしいことなのであろう。 これら犬禁規制は、山に限らず日本中にどこでも見られる光景で、その原因のほとんどが心ない飼い主のマナーの悪さにある。しかし、毎回非常に不思議に思うことは、犬飼にのみ適用される“マナーの悪さ=即立入禁止”の構造だ。世の中にはどこにでもマナーの悪い人間はいるもの。それはこれから数千年経ったとしても、そんな輩がいなくなることはないだろう。山を歩けば至る所に膨大なコンビニ弁当などの残骸や吸い殻が散らばっている。これらは生態系に影響はしないのだろうか?しかしコンビニ弁当の持ち込みは禁止になっていないし禁煙にもなっていない。山火事などの事を考えたらタバコなどはもっとも危険な持ち込み物かも知れない。犬飼にのみ厳しいこの構造がこの先も続くのならば、犬は永久に外に出られなくなる。 とかく安易に規制されがちな犬であるが、犬を連れ歩くのは個人の権利だ。安易な犬規制は、紛れもなく“人間の権利”を規制している事だということを忘れてはならない。 だからといって、このまま野放図に構えていていいと言うものではもちろんない。自然はみんなの財産だ。我々の愛犬が環境破壊の原因になる事などは絶対あってはいけないことだ。そのためにも、みんなで知恵を出し合って、どうしたら自然環境に優しく、快適な山歩きが出来るのかを考えてみたい。それには一定の基準作りが必要になるかも知れないあるいはライセンス制なども考えられるかも知れない。希ではあるが、登山道で行き交う人に、白い目で見られたり、心ない言葉を浴びることもあるという。犬の吠え声で野鳥の声がしなくなってしまったと言われ肩身の狭い思いもする事もある。環境保全と同時に、犬を不快に思う人々への配慮も重要なテーマとなるはずだ。 前述の県山岳協会の須藤さんが取材後に語ってくれた言葉 *この原稿を書き上げた直後に、立山の雷鳥が平地の細菌による皮膚病に感染した新聞ニュースが飛び込んできた。大変哀しい出来事であるが、またもや入山するペットが原因かのような小見出しがついていた。感染した細菌はブドウ球菌の一種で、通常人間にも多く見られる細菌だという。詳しい原因究明以前に、あたかもペット(2,400mの高地であるからペットとは言っても犬のことを指しているのは確実だろう)の入山の危険性を煽る報道はいかがなものか。これらの問題の最大の原因は、マイカー規制はしているとはいうものの、雷鳥の営巣地間近まで観光道路をつけ、おびただしい環境破壊をしている行政にあることは明白な事実なのだ。次回は、国立公園周辺などで見かける犬規制の実体。その法的根拠として良く上げられる『自然公園法』に、本当に犬規制の条文はあるのか?トラブルにならない犬連れ山登りとは?など、引き続き“犬連れ山登り”問題を考えてみる。 |
|